大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宮崎地方裁判所 昭和36年(ワ)378号 判決 1966年4月12日

原告 船津義雄 外一三名

被告 国

訴訟代理人 斉藤健 外六名

主文

訴訟費用は原告等の負担とする。

原告等の請求を棄却する。

事実

原告等訴訟復代理人は「被告は原告等に対しそれぞれ別紙(一)債権目録請求金額欄記載の金員及びこれに対する本訴送達の日の翌日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として

「一、原告等は国に雇傭され昭和三五年一月から同年一二月の間においてはいずれも林野庁熊本営林局高千穂営林署管内に勤務し、同所において賃金の支給を受けていた者であつて、その労働関係については労働基準法の適用がある。

(中略)

二、原告等の勤務時間は平日は午前八時三〇分より午後五時まで、但し土曜日は午前八時三〇分より午後零時一五分までとされており、高千穂営林署長の発する超過勤務命令により右勤務時間を超えて勤務するときは時間外労働賃金(超過勤務手当)として一時間当り給与額の一〇〇分の一二五、その勤務が午後一〇時から翌日の午前五時までの間である場合は一〇〇分の一五〇週休日、休日に勤務したときも同様の割合で支給を受けることとなつている。

なお原告等の勤務時間の始業時刻は国有林野事業職員就業規則(以下職員就業規則という)によれば午前八時一五分と定められているが、事実上午前八時三〇分としで取扱われている。これは労使双方の暗黙の了解のもとに長く行われている事実上の慣習であつて営林署職員は午前八時三〇分までに出勤すれば遅刻の取扱はされていない。

よつて午前八時一五分から同三〇分までの間の勤務についても超過勤務となる。

三、原告等は昭和三五年一月より同年一二月までの一年間高千穂営林署長の発する超過勤務命令によりそれぞれ超過勤務をなした。即ち、

(1)  外勤者(本署以外の事業所、貯木場に勤務する原告等をいう以下同じ)について。

原告等の本件時間外労働は高千穂営林署長の発する事業予定簿に基づく業務予定表に基き、各主任より発せられる超過勤務命令によつて行われたものである。

右事業予定簿の作成及び提示の経緯は各営林署の主任(事業所主任、貯木場主任等)が各管内における次年度の事業計画案を立案してこれを営林署長に上申し、署長は右上申を基礎として次年度事業計画表を作成し、右計画表は営林局を経由して林野庁へ提出され、同庁においてこれが次年度の各営林署の事業計画として確定し、更に右確定予定簿が営林局、営林署を経由して各営林署主任に提示されるものであつて、このように各事業所、貯木場等においてある年度内に消化すべき業務は、当該年度の事業予定簿によつてそれぞれ定められており、各事業所等の主任は右予定簿に基づいて各月毎の業務の計画をたて、これを業務予定表に作成して毎月の出署日に署長の決裁を受ける。右業務予定表に従つて各月の業務が実施されることになる。

ところが、右事業予定簿なるものは、各事業所等の「組織、人員構成、物的裏付けを充分検討のうえ、それらが通常の方式で運営遂行される限り充分に達成出来るよう計画樹立されているもの」ではなく、それの命ずる事業分量と各事業所の人的、物的裏付けとの間にはなはだしい乖離があるので事業分量を命ぜられた期間内に達成するためには、各現場の職員は時間的にも非常な労働強化を続けざるを得なくなる。

かくしして本来「風水震火災その他避けることができない事態が生じた場分又はそのおそれがある場合」ならびに「業務上やむを得ない場合」(職員就業規則第三四条)にのみ例外的になさるべき超過勤務が季節的に繁閑の差こそあれ、むしろ常態となつている。

しかるに各営林署において当該年度において支払われるべき超過勤務手当の総額は当該営林署の年度予算全体との関連できわめて乏しく、常態化した超過勤務の全てに亘つて超過勤務手当を支払うほどの余裕がないから、署長は各事業所等に消化を命じた業務量とは無関係に、専ら予算額との関係で毎月超過勤務時間数の枠を、換言すれば超過勤務手当の支給が予定されている超過勤務時間数の最高限度をあらかじめ指示するのである。

このように超過勤務時間数の枠の指示はけつして当該月に必要な(すなわち署長の命令に基づく)超過勤務時間数の限度を定める意味をもつものではなく、あくまで国家予算の制約のもとに支給の保障された超過勤務手当額の限度を予告する意味をもつにすぎない。

営林署長は毎月の出署日に各事業所等主任に対して、当該事業所等の当該月における一定の業務数量の消化を当該年度の事業予定簿に基づき当該月の業務予定表によつて命令するが各事業所等主任は命ぜられた業務予定表に基づいて労働し(また部下にも労働させ)、もし右業務が規定労働時間内だけでは命ぜられた期間内に消化しえない場合には、(それが常態であるが)時間外労働を行わざるを得ない(また部下にもそのように命令する)のである。

従つて右業務予定表には当然の超過勤務をしなければ処理できない程度の事務量が盛られており、従つて右業務予定表を主任に示してその遂行を命ずることは即ち主任をして部下職員に超過勤務させることを予め命令したといえるのであり、実際上、個々の事業所等における各月の超過勤務については当該月の出署日に署長から各主任に対して包括的に自已及び部下職員に対する超過勤務命令権を委譲しているのである。本件における原告等の超過勤務も昭和三五年一月より三月までの分は昭和三四年度の、昭和三五年四月より一二月までの分は昭和三五年度のそれぞれ高千穂営林署長の発した事業予定簿及び各月毎の業務予定表に基づき前記のとおり右署長より命令権の委譲を受けた各主任からの超過勤務命令に基づいでなされたものである。

(2)  内勤者(本署に勤務する原告等をいう、以下同じ)及び外勤者の出張に伴う超過勤務の場合について。

内勤者及び外勤者の出張については署長又は署長より権限の委譲を受けた各主任より口頭又は出張命令簿に対する決裁により出張の命令がされるが、出張中定時の勤務時間を超えて勤務した本件のような場合には右出張命令中には当然過勤務命令が含まれているものである。

即ち、出張命令と超過勤務命令とが形式的には別であるものの出張の際は、用務の質と量、期問等の指定により時間外の超過勤務を含めた命令を出していると解されるからである。

(3)  なお(1) (2) の場合のほかに「超過勤務命令簿」なるものが存在するが、超過勤務命令簿による超過勤務命令は当該年度の営林署の超過勤務の予算額の範囲内の超過勤務命令を記載するだけの形式的なものであつて、事実に反し信憑性のうすいものであるから右超過勤務命令簿による超過勤務命令のみが超過勤務命令といえるものでないことは前述のとおりである。

(4)  前記超過勤務命令に基づいて原告等は超過勤務を行つたのであるが、その実績は、国有林野管理規程(昭和二六年一〇月九日農林省訓令第一〇五号)に基づく森林手簿に記載されており、右森林手簿に対する営林署長の閲覧及び検印によつて原告等の本件超過勤務の実績が認められていることになる。右管理規程により外業従事者(内勤者及び外勤者が外業に従事する場合)に森林手簿の携帯及び所定事項の記載が義務づけられており、外業従事者はこれに毎日の勤務状況の明細(勤務時間、業務内容、行動距離、使用した交通機関等)をメモ風に記載するよう命令されていたものである。

被告は森林手簿は元来国有林野の管理の為に設けられたものであつて、副次的に外業従事者に対する指揮監督の機能をも果していたにすぎない旨主張するが、森林手簿制度の本来の目的はともあれ、本件当時これが外業従事者の勤務時間の管理、勤務内容の規制に重要な役割を果していたことは否定すべくもないところである。たとえば出勤簿、旅行命令簿等の整理は全て事後に森林手簿の記載と照合して行われていたし、出張の場合の旅費の計算は森林手簿の記載を基礎として行われていた(職員が出張旅費を請求する場合には旅費精算請求書に森林手簿を添えて提出することを求められた。すなわち職員の署管内における公務旅行についは原則として農林省職員日額旅費規程に基づいて出張旅費が支給されるが、右規程によれば旅行の距離及び行動時間によつて旅費の単価が異なつており、旅費計算の基礎となる旅行の距離、時間の認定は森林手簿を唯一の根拠としていた)。

森林手簿の記載が外業従事者の勤務の実績を正確に顕現しており、従つててれが外業従事者の勤務時間管理の重要な証拠となることについては管理者側も全林野労働組合九州地方本部との団体交渉の席上再三認めているところである。

以上のとおり、森林手簿の勤務時間の記載は原告等の本件当時における超過勤務の実績を如実に顕現しているといわなければならない。従つて当然、出張中の超過勤務についても諸法令のいう「労働時間を算定し難い場合」とはいえず「勤務時間につき明確に証明出来るもの」にあたるというべきである。

四、以上のとおり原告等は超過勤務を行つたが、そめうち別紙

(二)「時間外月別労働一覧表」記載の各時間数の時間外労働(超過勤務)については被告はその賃金の支給をせず、その、未払金は別紙(一)「債権目録」中未払金合計欄記載のとおりである。

なお原告等の本件時間外労働時間の内訳は別紙(三)「時間外労働各人別計算表」のとおりであり、超過勤務手当算定の基礎となる賃金単価は別紙(四)「超勤単価等一覧表」のとおりである。

よつて原告等は被告に対し、右未払金員と労働基準法第一一四条所定の附加金ならびに右合計額に対する本訴状送達の日の翌日より支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだものでる。」と述べ、

なお超過勤務を命じうる場合について、及び具体的に超過勤務を命じた場合の時間管理の方法等が被告の主張するとおりであることは認める、とのべた。

被告指定代理人は「主文同旨」の判決を求め、答弁として、

「一、請求原因第一項及び同第二項のうち、原告等を含めて営林署職員の勤務時間の始業時刻が午前八時三〇分であることを除く、その余の事実は認める。

右以外の事実は否認する。

二、右始業時刻は午前八時一五分である。すなわち職員就業規則第三三条によれば、原則として「午前八時一五分」とすることになつており、同規則第三二条によれば「一週間の勤務時間の割振りならびに一日の勤務時間、休憩時間、及勤務時間中の休息時間の割振りは所属の長(本件では高千穂営林署長)の定めるところによる」ものとされ、高千穂営林署長は右規則に基づき同規則第三〇条所定の休憩時間を正午から四五分間、同規則第三一条所定の休息時間を午前八時一五分から一五分間と午後零時四五分から一五分間とに割振つて定めていた。休息時間は勤務時間中に与えられるものであつて(同規則第三一条)、いわゆる実働時間の一部であつて給与支給の対象となる時間である。従つて午前八時一五分から同三〇分までの一五分間は超過勤務の対象となる時間ではない。

三、原告等に超過勤務を命令した分については被告は原告等に対して全て超過勤務手当を支給しており、未払いはない。

そもそも超過勤務手当なるものは超過勤務を命ぜられた職員に対し、その行つた超過勤務の全時間について超過勤務手当を支給するものであつて、右手当が支給される為には先づ超過勤務の命令が出され、これに基づく超過勤務の実績あることが必要であるところ、本件においては超過勤務命令もなく超過勤務の実績もない。即ち、

(1)  超過勤務については職員就業規則第三四条により、先ず超過勤務を命じうる場合を規定しており、それによれば「内勤者については公務のため臨時の必要がある場合にこれを命じ、外勤者については風水震火災その他避けることが出来ない事態が生じた場合及び業務上やむえない場合」に命じうるものであるが、更に第三七条により「出張、外業その他上司の監督を受けない場合の通常の勤務については所属の長又はその委任を受けた者から別段の指示がない限り所定の勤務時間で勤務したものとみなされ」もし別段の指示がある場合に限り超過勤務が命ぜられるわけである。

(而してかかる超過勤務命令に基づき超過勤務を行つたときは月給制職員については二八協第一号の一「労働条件の暫定的取扱に関する協定」に基づき「従前適用されていた国家公務員法その他の法律及びこれに基づく政令、規則、指令、細則、訓令、通牒等の例により取扱うもの」と定められ、従つてこの従前の例即ち「一般職の職員の給与に関する法律」(昭和二五年法律第九五号)第一六条により「正規の勤務時間を超え勤務した全時間に対して第一九条等に規定する勤務時間当りの給与額の一〇〇分の一二五(その勤務が午後一〇時から翌日の午前五時までの間である場合は一〇〇分の一五〇)を超過勤務手当として支給する」ものと定められ同第一七条で祝祭日についての月給制職員の休日給については右同様一〇〇分の一二五の休日給が支給される旨定められている。

そして日給制職員についても三二林協第一六号「国有林野事業の作業員の賃金に関する労働協約」により右と同率の超過勤務手当の支給が定められている。

(2)  而して次に超過勤務、休日勤務手当等の支給について前記法令のもとに、昭和二六年一二月二八日付「人事院細則九-七-二」が定められ、その第一条で「各庁の長又はその委任を受けた者は超過勤務、休日勤務及び夜間勤務命令簿を作成し職員に超過勤務、休日勤務及び夜間勤務を命じた場合はその都度勤務時間管理員にその年月日、職員の氏名、超過勤務、休日勤務又は夜間勤務の区別及びそれぞれの手当の支給割合別の時間をこれに記入させたうえ、自ら押印するものとする」と、次いで第二条で「勤務時間管理員は勤務時間報告書に超過勤務、休日勤務及び夜間勤務の時間を記入するに当つては超過勤務、休日勤務及び夜間勤務命令簿に基づいて行わなければならない」と規定している。

(3)  本件係争にかかわる高千穂営林署管内の昭和三五年中の超過勤務手当の支給に関する取扱いは、次のとおりである。

即ち、内勤者については署長が所属課長等の意見を聴いて超過勤務を必要とする都度当該超過勤務を必要とする職員に対し具体的に超過勤務を命じ、同時に超過勤務命令簿にその旨記載して署長決裁をなし、次いで勤務時間管理員が超過勤務命令簿に基づいて勤務時間報告書を作成し、署長が決裁のうえ経理課をして超過勤務手当を支給していた。

外勤者についてはその超過勤務の必要を個々具体的かつ時宣に適して署長が命ずることは外勤業務の特殊性、署と各事業所等との地理的時間的条件等に鑑み当を得ないので各事業所等主任に対し毎月、月始めの出署日に包括的に当該事業所毎に超過勤務時間数の枠の指示しておき、各事業所等主任はこの枠内において署長に代行して自已及び部下職員に対し、超過勤務を必要とする都度これを命じ(前記枠以上に超過勤務命令を必要とする場合には予め署長の許可を求めたうえ超過勤務を命じ)、超過勤務命令簿に代行記載し、翌月の出署日にこれを署長に提出して決裁を受ける(そしてこれは右枠を指示した範囲での超過勤務命令権の代行を認めていたに過ぎず、原告主張のように時間数の範囲を指示しない包括的超過勤務命令権の委譲ではなく、またこのような委譲をしたこともない)。

そして各事業所等主任から右命令簿に基づく超過勤務報告書を別途提出せしめ(場合によつては電話報告にても可)、勤務時間管理員がこれに基づいて勤務時間報告書を作成し、署長がこれを決裁して前記内勤者同様経理課をして超過勤務手当を支給していた。

而して原告等に対する超過勤務についてもその超過勤務の命令及び超過勤務手当の支給は、いずれも上述の取扱の方法に従つていたものであり、従つて昭和三五年中において高千穂営林署長が原告等に対して命じた超過勤務に関する限りは全てこれが超過勤務手当の支給がなされており未だ一円の未支給も存していないのである。

(4)  然るに原告等は以上の法令に基づく超過勤務命令を無視して外勤者については恰かも事業予定簿及び業務予定表によつて超過勤務命令が発せられたものの如く主張する。

しかしながら、事業予定簿なるものは国有林野管理規程による経営計画及び同規程に基づく年次計画に立脚し、各事業区別を単位に作成されるものであつて、当該具体的事業年度における個々の事業区(実際は営林署毎)の実行予算を伴つた事業の予定簿である。その内容は事業別(例えば造林事業、種苗事業、収穫事業等)にいくらの労働量を使い、いくばくの役務費をかけ、どれ位の物件費を使つてその事業分量を行うかが計上されている。

このように事業予定簿は各営林署の当該事業年度における事業分量ならびに予算を予定として計上したものに過ぎず外勤者の日々の業務内容が割り出されるものではない。

勿論この事業予定簿による事業分量は当該営林署の一年間の事業の種類、分量を予定(計画)として明らかにしたものであるが、これを実行するについては、いわば人と物と行為とが綜合的、有機的かつ最も効果的に発揮されねばならない。その為各営林署にはこの業務を遂行する為の組織が設けられ、各部署に必要な人員が配置され、更に職員の給与(超過勤務休日勤務手当等を含む)、旅費、庁費等の予算のほか前述の如き労力費、役務費、物件費等が配分されるわけである。

そして事業予定簿の事業分量もかかる組織、人員構成、物的裏付けを充分検討の上、それらが通常の方式で運営遂行される限り、充分に達成出来るよう計画、樹立されているものである。従つて営林署管内における各部署即ち営林本署、事業所等に所属する署長以下全職員は各持場においてその平常業務を国家公務員法第九六条にいう「全力をあげて職務遂行に専念」すればよいわけであつて、それ以上にもまたそれ以下にも労働の強制をされているものではない。

なお原告等は事業予定簿に基づいて各月毎に業務予定表が作成され営林署長宛上申し、署長が同予定表に基づいて各人に具体的業務を行うことを命じている如く主張しているが、昭和三五年中において高千穂営林署管内で右のような業務予定表を作成承認し、これに基づいて業務命令を発した事実はない。

すなわち当時高千穂営林署管内には三事業所、一貯木場五担当区が存し、それぞれに主任が配置されていたものであるが、この九名の主任から毎月決つて業務予定表が出されたことはなかつた。ただ同年一一月上野、岩戸、日ノ影、三ケ所の、四担当区一二月に岩戸、日ノ影、三ケ所、川の詰の四担当区の各主任から乙第一〇号証の一ないし八の業務予定表が提出されている。しかしこれらは必ずしも提出者の押印が整つているわけではなく、また一応受理日付のスタンプが押されているものの、受付番号は付されておらず管理者の供閲印も殆んどがなされていないのである。

これは要するに、それらの記載内容は当該担当区主任自身の行動予定一覧表に過ぎず、当該担当区としての業務予定表という内容のものではない。

従つて事業予定簿による業務予定表に基づき超過勤務命令が発せられたとする原告等の主張は全く根拠がない。

(5)  原告等は内勤者及び外勤者に対する出張命令即超過勤務を命じたものであると主張し、恰かも出張中の定時の勤務時間を超えた分については当然超過勤務手当が支給されるべきものの如く考えているがこれは誤りである。

けだし出張中の時間外労働については、<イ>労働基準法施行規則第二二条で「労働者が出張、記事の取材、その他事業場外で労働時間の全部又は一部を労働する場合で労働時間を算定し難い場合には、通常の労働時間労働したものとみなす、ただし使用者が予め別段の指示をした場合はこの限りではない。」と定めており、<ロ>一般職の職員の給与一に関する法律の運用方針」(昭和一一六年一月二六日給実甲第二八号)第一六条関係第三項によれば「公務により旅行(出張及び赴任を含む)中の職員はその旅行期間中正規の勤務時間を勤務したものとみなす。但し、旅行目的地において正規の勤務時間を超えて勤務すべきことを職員の所属庁の長が予め指示して命じた場合において現に勤務し、かつその勤務時間につき明確に証明出来るものについては超過勤務手当を支給する。」こととなつているばかりでなく、<ハ>職員就業規則第三七条によれば「出張、外業その他上司の監督を受けない場合の通常の勤務については所属の長又はその委任を受けた者から別段の指示がない限り所定の勤務時間で勤務したものとみなす。」と定められ、<ニ>本件高千穂営林署における労使簡の覚書(昭和三三年七月一四日三三穂協第三号)の第八項によれば「出張中の超過勤務については原則として命令しない。特にやむを得ない場合はその都度命令する」ことになつており、<ホ>更に熊本営林局管内における労使間の覚書(昭和三二年九月六日三二熊脇第一四号)第五項によれば「休日及び土曜日の午後にかかる出張に当つて勤務するよう指示したときは超過勤務手当を支給するかまたは休日の振替を行うかの何れかを示すものとする。」こととなつている。

これで明らかなように、出張中は別段の指示がない限り、所定の勤務時間内で勤務したものとし、出張中の超過勤務については原則として命令しない。特にやむを得ない場合はその都度命令すると定め、実際においてもこの通り実行されて来た。

だから別段署長から出張に際し、超過勤務の命令がない限り、たとえ時間外にわたつて勤務をしたと仮定しても、それは直ちに超過勤務手当の対象となるものではないから、かかる別段の指示の存否を確認することなく漫然と森林手簿から出張中の勤務に関し、時間外にわたつたかどうかを拾つて来ただけで直ちに超過勤務手当を要求出来る筋合のものではないのである。

なお、出張命令は旅行命令簿の記載内容が示すとおり、用務と用務先と旅行期間を記載するだけであるが、原則として旅行期間の所定勤務時間内に概ね処理し得る程度の用務の質、量を指定し、所定勤務時間外に亘つて勤務しなければ完了し得ないような業務を命ずることはなかつた。もし用務の遂行につき通常の勤務(出張勤務)をもつて完了しないときはその必要に応じ別段の指示即ち超過勤務命令かまたは出張期間を延長する命令或いは用務を一時打切り後日検討のうえ、対策を講ずる等の措置をとるのが通常であつて、旅行命令即ち超過勤務命令を含むというものではない。

要するに出張命令を発したからといつて、直ちに超過勤務を命じたことにはならないのである。

(6)  原告等は本件超過勤務の実績を森林手簿から拾つて掲上し、それによりその実績ありと主張する。

しかし森林手簿なるものは昭和三六年一月廃止されるまで、外業に従事する職員にこれが携帯及び所定事項の記載を命じていた公的簿冊には外ならないけれども、それに記載された事実どおりに超過勤務が支給されるという規程も慣行も存していなかつた。否むしろ高千穂営林署における本件当時職員に対する勤務時間管理の建前は、森林手簿によつて行われていたものではなく、超過勤務命令簿のほか、旅行(出張)命令簿、休暇簿、出勤簿等によつて勤務時間管理が行われていたのである。

森林手簿がいかなる公的簿冊かといえば、国有林野管理規程により携行及び記載を定めたものであるが、これは必ずしも勤務時間の管理を目的として記載を命じているものではなく、あくまでも国有林野の管理面においてその管理業務の第一線に立つ外業従事者に出来るだけ管理上特記さるべき事項を記載せしめ、これを通じて各営林本署当局に於てもその所管する国有林の管理に万全を期すべく重点がおかれていたものである。故に森林手簿は本来外業に従事する者の勤務内容を規制することを目的としたものではなかつた。

しかしながら、森林手簿の記載から、間接に当該外業従事者の行動の一端を窺う事が出来るので、この限りにおいて外業従事者の自律的行動を知るよすがとして、管理者が指揮監督上、供閲するととも嘗てないわけではなかつた。しかしかかる副次的な監督的供閲も前述した勤務時間管理の制度が完備するに伴いその意味も次第に薄れて来たばかりでなく、国有林野の管理という面からも、旧態依然のかかる手簿で充分とは言い難いとの反省、批判もあり、本件当時にはほ最早ただあるからということで記載されて来たのが実状であつた。

従つて、本件当時、森林手簿が勤務時間管理即ち超過勤務、出張勤務又は休日勤務等の管理面において、制度上原告等主張の如き意義を有していたことは全くなかつたものである。

そして森林手簿年ついての営林署長の捺印は、本件当時は前述の如く単なる閲覧に過ぎず、記載内容の承認を意味するものではない。もしその捺印が原告等主張の如き超過勤務等の事蹟の承認を意味するものであるならば、執務上当然にこの閲覧(決裁)に基づき、次にはその記載内容に対応する超過勤務、休日勤務、出張勤務等の各手当の支給が起案され、その支給がなされるべき手筈となつておるべき筋合のものである。然るに実際には、そのような関連性は制度上全然存しておらないのみならず、法的にもかかる定めは国有林野管理規程のどこからも出てこないのである。

なお出張旅費の支給手続においては農林省職員日額旅費規程により、旅行の距離及び行動時間に基づいて旅費額の単価が異なる。そのため旅行の距離及び行動時間を確認する必要があり、その限りに於ては森林手簿が確認の資料として用いられていた。(なお森林手簿を廃止した現在においては、旅行命令簿の備考欄に距離、時間をそれぞれ定額の異なる巾単位に記入するよう通達をもつて定められている。)

しかしそれ以外の旅費法に基づく旅費の請求額の算定には、右の如き必要がなかつたので勿論森林手簿が確認の資料として用いられたこともない。いわんや森林手簿なるものが超過勤務の事蹟の確認に用いられたことはいまだかつてないのであり、これに対する署長の捺印をもつて超過勤務命令の証拠としたこともこれまたなかつたことはもはや多言するまでもないところである。

四、以上述べたとおり、原告等の本訴請求は理由がないことが明らかであるから棄却されるべである。」と述べた。

証拠<省略>

理由

第一、請求原因第一、二項(但し、勤務時間の始業時刻の点を除く)の事実及び超過勤務を命じうる場合及び具体的に超過勤務を命じた場合の時間管理の手続方法等についての法令上の建前が被告主張のとおりであることは当事者間に争がない。

第二、そこで原告等が主張する本件請求部分について超過勤務命令があつたかどうかにつき判断する。

(一)  外勤者について。

原告等は本件超過勤務は高千穂営林署長の発する事業予定簿に基づく業務予定表に基き、各主任より発せられる超過勤務命令によつて行われたものであると主張する。

<証拠省略>によれば、本件当時高千穂営林署において当該年度に支払われるべき超過勤務手当の総額が予算として一定の額が予定されており、この予算額との関連で各事業所等毎に各月の超過勤務時間数の枠が署長より示され、この枠を基準として超過勤務手当が前記法令の定める手続によつて支給されていたところ、その枠は毎月一人当り八ないし一〇時間であり、これに各事業所等の人数を乗じた時間数の範囲内において署長より超過勤務命令権の委譲を受けた各事業所等主任が署長を代行して自己を含めて部下職員に超過勤務を命じていたこと、各人に対する超過勤務を命じた時間数は各月均等、各人均等ではなく、そこには右示された時間数の範囲内で各主任の裁量によつて各月各人によつて或る程度の巾があつたが、いずれも右主任のなした超過勤務命令はすべて実行され、しかも同勤務については正規の賃金がすべて支払われていること等の事実が認められ、同認定に反する<証拠省略>は前掲証拠に対此し信用出来ないし他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の限度にとどまらず、主任が右超過勤務手当予算の枠を越え原告等に対しその主張の日時に超過勤務を命じた事実については本件各証拠を検討するもこれを認定するに足る証拠はない。

原告等は更に、右認定の如き主任からの明示の超過勤務命令はなくても、事業予定簿ないしはこれに基く業務予定表を本件高千穂営林署長が、直接或は各主任を介して間接に下部職員に示し、一同文書に記載された業務の遂行を命じているからこれはその事務量からみて、その際暗黙且つ包括的に、同事務を遂行するに必要な相当時間の超過勤務を命じたことにほかならないと主張する。そこで右事業予定等の関係において超過勤務命令があつたかどうかを判断する。

国有林野経営規程によれば事業予定簿は同規程に基いて作成されるものである。即ち、同規程によれば営林局長は関係営林署長の意見を聴いた上、経営計画区につき五年毎に翌年四月一日以降五年間の経営計画を編成して林野庁長官に提出し同長官の承認を受けたときは営林署長にその経営計画及びその実施に関し必要な事項を指示する。営林署長は右指示を受けたときはその指示に従つて事業区毎に当該経営計画の計画期間について年次計画を作成し、これを営林局長に提出して承認を受け、営林局長は毎年五月三一日までに当該年度の翌年度の事業に関する年次計画又は事業見込に基いて当該年度の翌年度の事業に関する年度計画総括表を作成して林野庁長官に提出し、同長官は予算の配賦があつたときは右年度計画総括表を勘案して各営林局において当該予算年度に予定すべき事業量等を指示し、営林局長は右指示に基づいてさらに営林署において当該予算年度に予定すべき事業量等を指示する。そして右年次計画及び営林局長の指示に基づいて原則として営林署長が各種事業予定簿を作成し(特殊な事業予定簿は林野庁長官ないしは営林局長が作成する)、これを営林局長に提出して承認を受け、営林局長は予定総括表を作成して林野庁長官に提出して承認を受けることとなつている。

このように当該営林署に関する年次計画及び事業予定簿は当該営林署長が作成することとなつているが、その作成の過程は<証拠省略>によれば本件当時高千穂営林署においては管内の各事業所等の主任に対し署長から事業予定量が指示され、主任はそれを検討し各事業所等に関する資料を添えて事業計画案を署長に提出し、署長はこれらを綜合的に検討して、その営林署に関する年次計画を作成することとなり、更にその後前記営林局長から指示される営林署における当該予算年度の事業予定量と右年次計画に基づいて署長が事業予定簿を作成する仕組であつたとの事実が認められる。そして前記経営規程及び<証拠省略>によれば右事業予定簿が営林局長より承認されれば確定予定簿として当該年度における営林署及びその管内各事業所等の一年間の消化すべき事業量の予算定となる(なお確定予定簿とはいつても、その年度中において変更のありうることは予定されている)ものであることが認められる。

しかし、原告等の所属する各事業所、貯木場について右事業予定簿のほか業務予定表が存在した事実を認定するに足る証拠はない。

しかしながら、業務予定表の存在は認められないものの年間の計画を月別に区分して計画を遂行することは通常考えられるところであり、<証拠省略>によれば各事業所等主任が毎月高千穂営林署に出署する日に署長、主務課長、主任が協議して各事業所等に関する事業予定簿に基づき月間の計画を樹てていた事実が認められる。而してこのような月間の計画に基づく業務遂行は<証拠省略>によれば林野業務が多分に季節に左右される性格を有するものであるから、当該月とは限定しなくとも、爾後の業務遂行に支障を来さないよう季節内には消化しなければならない性質のものが多分にあつたことが認められ、前記経営規程の建前からみれば全国的な規模に亘る年次計画であるから、末端の事業所等についても事業予定量の完全消化が好もしいものであること、従つて署長各主任等は業務予定の遂行に種々工夫を講じていたことが<証拠省略>によつて認められるものの、右経営規程によれば事業予定簿の変更もありうること、<証拠省略>によればその為の会議が熊本営林局で毎年九月頃開かれていた事実が認められ、更に<証拠省略>によれば署長は毎月の出署日に各主任に対し超過勤務時間数の枠を指示する際、外業では右時間数以上に超過勤務をしなくてよろしい、超過勤務が心要であればその理由を付して上申するようにと常々指導していたこと、昭和三四年六月二三日の団体交渉で、今後も予算の範囲内で超過勤務を命じ、予算不足によつて業務に支障を来したときは当局の責任とすることとの申合せがなされていることの事実が認められ結局署長より超過勤務時間数の枠とは関係なぐ年間の事業予定量ないしは月間の事業計画の消化を義務づけられていたことを認めるに足る証拠はない。

以上説示したとおり、署長が原告等に対し事業予定簿ないし月間計画による業務の遂行を超過勤務時間数の枠との関係なく義務付けられていたと認めることが出来ないので、従つて右事業予定簿ないし月間計画によつて署長が本件の超過勤務命令を発していたとみることは出来ないし、また署長が各月の出署日に超過勤務予算の枠との関連なしに各主任に対し超過勤務時間数を指定せずに包括的に超過勤務命令権を委譲していた事実が認められないことは明らかである。

(二)  内勤者及び外勤者の出張の場合について。

原告等は出張(旅行)命令に基づく出張の際正規の勤務時間を超えて勤務した本件のような場合には、出張命令と超過勤務命令とが形式的には別個ではあるものの、出張の際は用務の質と量、期間等を指示するので右出張命令には当然超過勤務命令を含んでいるものであると主張する。しかし本件各証拠を検討しても右出張命令の際、原告等主張の超過勤務命令がなされていた事実を認めるに足る証拠なく、又たとえ原告等が主張する如く、出張の際正規の勤務時間を超えて勤務していた事実が認められるとしても、そのことから直ちに同勤務についての超過勤務命令があつたものと推定することもできない。かえつて本件当時高千穂営林署において出張に伴つて超過勤務を命ずる場合の取扱いが労働基準法施行細則第二二条、一般職の職員の給与に関する法律の運用方針第一六条職員就業規則第三七条、昭和三三年七月一四日三三穂協第三号覚書第八項、昭和三二年九月六日三二熊協覚書第五項により「出張中の超過勤務は原則として命令しない。特にやむをえない場合はその都度命令する。休日及び土曜日の年後にかかる出張に当つて勤務するよう指示したときは超過勤務手当を支給するか又は休日の振替を行うかの何れかを示すものとする」こととなつていることは当事者間に争がなく、また<証拠省略>によれば出張に伴う超過勤務特に休日及び土曜日の午後にかかる勤務の取扱いについてすでに昭和三二年頃から熊本営林局管内で労使間の団体交渉事項となつていたこと、その交渉の結果勤務するよう指示したときは超過勤務手当を支給するか又は休日振替かを行うようにする。短期出張(三週間未満の場合)の場合は勤務するよう指示するとの取極めがなされていたこと、しかし出張旅費についても超過勤務と同様予算が定められており従つて署長は各課、各事業所等別に年間、月間の使用目標額を定め、内勤者に対してはその目標額の範囲内で署長が出張命令をなし、外勤者に対しては各月の出署日に各主任にその月の使用目標額を指示し、その額の範囲内で出張命令権を委譲していたこと出張命令に超過勤務を必要とするときはその都度超過勤務を命ずるという前記取扱いに従い、例外的に巡廻映画(内勤者が作業員等の慰安の為各事業所等を巡廻して上映する)賃金支払等については特に超過勤務を命じ(この分の賃金は全額支払がなされた)ていたが、原則としては命令していなかつたこと、予算の制約があるので昭和三四年六月二三日の団体交渉(三四穂協第二号-乙第一三号証)が労使間において予算の範囲内で今後も超過勤務を命じ、予算不足により業務の支障を来したときは当局の責任とするとの取極めがなされていたことの事実が認められ、同認定に反する<証拠省略>は前掲証拠(特に乙第一六号証の一)と対此して信用出来ず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

第三、右第二の(一)、(二)において判断したとおり本件請求部分全てについて超過勤務命令があつたと認めることを得ない。従つて爾余の点を判断するまでもなく原告等の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴、訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中池利男 井上孝一 塚用武司)

別紙(一)~(五)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例